3500万円が貯まるまで⑬「そして、私だけが残された」
ごきげんよう、おひとり様セミリタイア中のヤモリです。
この記事は私が借金270万円から始まって転職を繰り返し、15年で3500万円を貯めてセミリタイアするまでを連載形式で書いています。前回はサブリーダーとなった先輩派遣社員Sさんの指示通りにするも、リーダーが戻ってくると「違う。それじゃない」と言われ続けることにストレスを感じてというところまででした。その続きです。
初回:セミリタイア資金3500万円が貯まるまで①「マイナス270万円からのスタート」
リーダーへの相談
私はリーダーに面談の時間を作ってもらって、どうしてもリーダーとSさんの指示が食い違ってしまうことを相談しました。言葉のニュアンスが微妙だとかはともかく、文章を長くしてほしいと短くしてほしいのように完全に食い違ってしまう点については、「まだチームが発足したばかりだから」では説明がつかないと。どうしたらいいのか悩んでいるので、一緒に考えて欲しいと頼みました。
リーダーは暗い顔をして教えてくれました。
「Sさんが自分の指示と食い違うのは以前アシスタントについていた別の社員のやり方に倣(なら)っているからで、自分としては新しいやり方に変えて欲しいのだけどすでに水を吸ってしまったスポンジのようにそれがなかなか入っていかない」のだと。
実は他の2人のメンバーからも同じ相談は受けていること、リーダー自身もどうしたらいいか妙案がなくて困っていることも話してくれました。
ダメ元で指示系統をリーダーから直接メンバーに指示を下ろすように変えられないか提案してみました。メンバー全員で新しいやり方に順応しに行った方がまだ助け合ったりも出来るのではないかと思ったためです。
「できるだけそうしてみる」とリーダーは言いました。
でも、実際は相変わらず会議で朝から不在の時間が多く、実質的には何も変わりませんでした(週に何度かリーダーとSさんだけの打ち合わせが続きました)。
最初の異変
入社してひと月が経つか経たないかの頃、最初の異変が起こりました。
長期の予定で入ったはずの3人の派遣社員のうち、一人が急に辞めることになったのです。
その人は明るくはサバサバとした派遣らしからぬ女性でした。『派遣らしからぬ』と書いたのはなんというか雰囲気があまりにも堂々としていたためです。この人をキャリアウーマンさんとします。
実際、キャリアウーマンさんはつい最近まで正社員の企画職でバリバリ働いていて、結婚を機に退職して派遣社員になったそうです。子供が欲しくて妊活しているので長時間労働はできないからと。未経験の職にも関わらず、物おじせず意見を言って様々な提案もしていました。雰囲気だけ見れば誰も彼女が派遣社員だとは気づかなそうなほど自信に満ち溢れた人でした。
実はSさんも結婚して妊活のために派遣になったという点で二人の経歴は似ていましたが、キャリアウーマンさんとSさんが一緒に並ぶとなぜかSさんの方が後輩に見えることが多かったです。キャリアウーマンさんの提案に対してSさんが「それってなんですか?」と質問する場面が目立ったからかもしれません。
(ブレインストーミングとかKJ法とかそんな感じのことを話していたんだと思います)
キャリアウーマンさんは知り合いから転職先を紹介されて急にそこに行くことが決まったとリーダーが言い、本当に急に決まって急に辞めていきました。リーダーに彼女の離脱の話を聞いてから退職まで5日もなかった気がします。
びっくりしつつお別れのセレモニー的なものをどうしようかともう一人の派遣さんと話していたら、リーダーが言いました。
「別にやんなくていいっしょ!」
その言い方がなんだか突き放すようで、私ともう一人の派遣さんは思わず顔を見合わせたのだけれど、「入社して一か月未満ならそんなものなのかもしれないな」と思って気にしないことにしました。派遣先はここで二件目だったので、案外それが普通なのかもしれないとも。
……本当はこの時に異変に気づくべきでした。
次の標的はベテランさん
ここでもう一人登場人物を紹介させてください。
その当時私たちのチームはリーダー、Sさん、派遣3人の5人チームだったのですが、デスクの配置的に同じチームではないけれどもう一人メンバーが同じ島にいました。
仮にこの人を風船ガム先輩と呼びます。帰国子女だそうで仕事中にずっとガムを噛んでいたからです。アメリカ映画でガムを噛んでいる学生がよく出てきますが、そんな感じで常にガムを噛んでいました。
その人は長いこと一人で重要度の高い仕事を任されているらしく、直属の上司は同じフロアの10人くらいのメンバーを取りまとめる敏腕社員で、うちのリーダーの先輩(上司?ではなかったと思う)にあたる人でした。入社直後の歓迎飲み会で、リーダーがこの先輩社員のことを「あの人は本当にすごい。とても尊敬している」と心酔したように褒めちぎっていたのを覚えています。
この風船ガム先輩とSさんは非常に仲が良いらしく、休み時間のちょっとした時間にもよく二人で言葉を交わしていることがありました。うまくチームがまとまらないことの相談をしていたりもしたのかもしれません。
当初Sさんは新しいチームメンバーと打ち解けるためか、ランチは風船ガム先輩とではなく私たち同じチームのメンバーと取っていたのですが、キャリアウーマンさんの退職を機にこの体制が崩れました。
「今日のお昼は別で食べません?」
そんな提案を機にSさんは度々風船ガム先輩とランチに行くようになり、残った私ともう一人の派遣さんもわざわざ二人で集まってお昼を食べるのを辞めました。私自身ランチは一人で食べる方が気楽なのでこの提案自体はありがたいものだったのですが、おそらくこの頃すべては加速していったのだと思います。
お昼を別々に食べるようになってから数週間後、今度はもう一人の派遣社員に異変が起こりました。OA事務の経験が長いベテランだとリーダーに紹介されていたので仮にベテランさんと呼ぶことにします。
朝は普通に出社して仕事していたベテランさんの顔面が、お昼休憩後には蒼白になっていました。能面のような無表情にときおり口元がひくひくと震えていて、激しい怒りが読み取れます。忙しない動きで無言で荷物をカバンに纏めていて、とても話しかけられるような雰囲気ではありません。
私はなすすべもなくその様子を見守っていたのですが、ふいに女性二人のクスクス笑いが聞こえてきました。
Sさんと風船ガム先輩が二人でぴったりと寄り添って、ベテランさんを見ながら囁きあい、そしてまたベテランさんの方を見て笑い声を漏らしていました。
ベテランさんの荷物を荒々しく纏めていた手は一瞬止まり、二人をキッと睨みつけました。
むき出しの憎悪を隠そうともしない目で、こんな表情は昼ドラ以外で見たことがなかったです。
そして、私だけが残された
荷物を鞄につめ終わるとベテランさんはドアを激しく閉めながら足早に執務室を出て行ってしまいました。
「ベテランさん、どうかしたんですか? 午後は戻ってくるんですか?」
その間ずっとペットボトルの飲み口をかじりながら席に座ってノートパソコンのモニタだけを眺めていたリーダーに、私はそんな間抜けなことを聞きました。
「帰ってもらった。午後は戻らないよ。明日からもう来なくていいよって言ってあるから」
リーダーはモニタから視線をはずすことなくそう言い放ちました。
私はそれ以上何も聞けなくなりました。
デスクの向こうからSさんと風船ガム先輩がクスクスと笑っている声が聞こえました。二人の視線の先に私がいることは、そちらを見なくてもわかりました。
続きます。
次回:3500万円が貯まるまで⑭「職歴に2度目の✖をつけたくなかった」
最初から読む:セミリタイア資金3500万円が貯まるまで①「マイナス270万円からのスタート」
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あとがき
派遣社員が正社員より堂々としてはいけないという法律も決まりもありませんが、正社員より出しゃばらず相手を立てるべしという不文律のようなものは当時感じていました。なんか中世の身分制度みたいですよね😅
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