3500万円が貯まるまで㉗「無職ニートとドラクエX」
ごきげんよう、おひとり様セミリタイア中のヤモリです。
この記事は私が借金270万円から始まって未経験でIT業界に転職し、15年で3500万円を貯めてセミリタイアするまでを連載形式で書いています。前回はクビになった後、何がいけなかったか考えるも答えは得られず気力を失って抜け殻のようになり……というところまででした。その続きです。
初回:セミリタイア資金3500万円が貯まるまで①「マイナス270万円からのスタート」
前回:3500万円が貯まるまで㉖「生き方マニュアルが見つからない」
Iさんが見兼ねてゲームソフトを買ってきた
仕事から帰ってくると暗闇の中に朝出かけた時に見たのと同じ姿勢のままの私がいるのを見て、「こいつヤベェ」と思ったらしいルームメイトのIさんが買ってきたものがあります。
ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンラインのゲームソフトです。
「それ、話題になってたから買ってきたよ」
そう言ってIさんはWii版パッケージをリビングテーブルの上に置きました。
ドラゴンクエストと言えばいわずと知れた国民的ゲームタイトルで、2021年の東京オリンピックのオープニングミュージックで採用された記憶も新しいでしょう。ゲーマーやオタクじゃなくてもプレイしたことのある人は多いはずです。そのナンバリングタイトル(スピンオフや派生ではない正当な続編)で初のオンラインゲームということもあり、当時かなり話題になっていたのを覚えています。
発売されたばかりのそれは行列を作らないと買えないほどでしたが、Iさん自身はゲーム好きというほどではないものの話題になっているものや入手困難なものがあればとりあえず手に入れてみる性分なので、買ってきたことが特に不思議とは思いませんでした。
しかし、その時の私は「そう……」と言ったままそれ以上その話題に触れることはありませんでした。
「俺はやる時間ないから代わりにやってみて」
次の日もその次の日も、相変わらずソファーの上で身動きもせずにいたと思います。独りでいる間、お昼ご飯をちゃんと食べていたかどうかもよく覚えていません。ただ、朝起きて寝間着を着替えて夜になったらまた着替えて寝るだけの生活です。ドラクエのパッケージもリビングのテーブルの上に置かれたままでした。
3日目の夕食を食べている時、Iさんが再びゲームの話題を出しました。
「それ、やらないの? せっかく買ってきたのに」
「……? 自分でやるために買ってきたんじゃないの?」
「……俺はやる時間ないから、暇だったらプレイしてみてよ。 面白かったら感想教えて」
「ん……わかった……」
ここにきてIさんがパッケージを買ってきたのは私のためだったのかもしれないなと思い至りましたが、心は空っぽのままで感情も動きませんでした。ただ買い物とか洗濯みたいに頼まれたからやらなくちゃと思っただけで、翌日パッケージのセロファンをはがすときも機械的に仕事をこなすような手つきでした。
ドラクエXはオンラインゲームではありますが最初のチュートリアルはオフライン(普通の据え置き型ゲームと同じ一人プレイ)です。一通りの操作や世界観を理解しながらポチポチボタンを押しているうちに、数時間ほどで「続きはオンラインで」となります。Iさんにそれを伝えると「オンラインもやってみたら?」と言われて回線をつないでみることにしました。
オンラインのサーバーにつながるとそこは別世界でした。
発売日からまだ間もないスタート地点の初期村にはたくさんのプレイヤーたちがひしめいていて、興奮冷めやらぬ様子でチャットをにぎわせています。
「こんにちは!」
「パーティー組みませんか?」
「ありがとう!」
「こんにちは!」
「こんにちは!」
これらはあらかじめ登録されている定型文でボタン一つで発言できるのを試し操作で連打されているだけだったのですが、私はなぜか自分が話しかけられていると思って慌てました(笑)。
「え? 待って? みんな、落ち着いて? ちょ、これどうやって返信するの?!」
不意打ちを食らって、どこか遠くに行ってしまっていた心が急に現実に引き戻されたような感覚でした。あるいは、発売を心待ちにしていたであろうゲームのプレイヤー同士がひとところに集まってお祭り騒ぎをするその熱気にあてられたのかもしれません。
いずれにせよ、その時を境目に私は急速にドラクエXの世界にはまり込んでいくことになります。
無職ニートにオンラインゲームをやらせると起こること
陽の気にあてられて久しぶりに「楽しい気持ち」を取り戻したのはいいのですが、困ったことも起こりました。今度はゲームが辞められなくなったのです。
ドラクエXは間違いなく面白いゲームでしたし、そこに仕事を辞めたばかりの無職ニートがジョインするというだけでも恐ろしい組み合わせなのに、私は一度のめり込むと他のことが考えられなくなる性格(過去記参照)です。無気力な生活が一転して、寝るかご飯食べるかドラクエするかになっていきました。正確にはドラクエしながらご飯を食べていたので寝るかドラクエするかですね。
すると最初は私のドラクエ報告をほっと安堵した様子で聞いていたIさんも、深夜になってもコントローラーを離さない私にしびれを切らして言いました。
「おい、クソチビ。いい加減にしろよな」
次回に続きます。
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(私のゲーム人生はテイルズオブデスティニーから始まりました)
あとがき
前回の3500万円が貯まるまで㉖「生き方マニュアルが見つからない」では数々のコメントをいただきありがとうございました。
当時の私の気持ちに寄り添ってくださった方が多くて、何年も前のことながら傷が癒される思いでした。また、正直な感想を寄せてくれた方もありがとうございます。どの意見もそれぞれ頷けるもので、コメント欄が一つの意見だけに染まらないのは健全性が保たれている証拠だと思い安堵しています。
このあたりのエピソードを書くにあたり言語化するのが難しく何度も書き直すのですがうまく伝えられているかどうかわかりません。私自身の文章力のなさも相まってあまりスッキリしていない人も多いかと思いますが、例のあの仕事とは後ほどもう一度向かい合って決着をつけることになります。今しばらく進行をお待ち下さい。
初回:セミリタイア資金3500万円が貯まるまで①「マイナス270万円からのスタート」
前回:3500万円が貯まるまで㉖「生き方マニュアルが見つからない」
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