3500万円が貯まるまで㉓「胸糞が悪くなる仕事」
ごきげんよう、おひとり様セミリタイア中のヤモリです。
この記事は私が借金270万円から始まって未経験でIT業界に転職し、15年で3500万円を貯めてセミリタイアするまでを連載形式で書いています。前回は派遣社員として働き始めた職場では好きな仕事と嫌いな仕事があって、嫌いな仕事の方は多大なトラウマとその後の正社員登用への布石となっていく……というところまででした。その続きです。
初回:セミリタイア資金3500万円が貯まるまで①「マイナス270万円からのスタート」
胸糞が悪くなる仕事
前回も触れた通りいろいろな意味で思い出深いその仕事ですが、一言でいうと胸糞が悪くなるようなタスクでした。フェイクを入れながら説明すると楽天やアマゾンのようなECサイトを思い浮かべてもらうのがわかりやすいかと思います。
仮に私の派遣先をA社とすると、A社は楽天やアマゾンのように多数の店舗が出店するインターネット上のショッピングモールを運営するのが事業内容でした。出展したい店舗を募って出展料を取る代わりに、店舗のお客さんになってくれそうな人を集めてくるのがサービス内容です。
このサイトには出展中の店舗オーナーが一日一回、数行程度の更新情報をサイトに載せられる仕組みがありました。「本日セール開催中!」とか「商品がテレビで紹介されました!」とかそういうことを最新情報として宣伝できるわけです。更新情報があるとその店舗は【NEW】のアイコンとともにサイトの目立つ位置に表示されるのでよりお客さんが来やすくなるという寸法です。
一見いい機能に見えるのですが、これには落とし穴がありました。
嘘の更新情報
まず第一に、更新情報が嘘の更新情報になってしまったことです。
例えば、「商品がテレビで紹介されました!」を次の日は「商品がテレビで紹介されました。」に変えるだけで、システムは新しい情報が入稿されたと判断してしまうため、末尾だけを1文字変えて文章を使いまわすということが横行しました。「目立つ位置に表示されてお客さんを集めたい、でも毎日新しいニュースを考えるのは面倒だ」と思ったのでしょう。一店舗そういうことを始めるとすぐにほかの店舗も真似し始めて、あっという間に更新情報には使いまわしの定型文が【NEW】の文字とともに並ぶことになりました。消費者の立場から見れば何のメリットもないですし機能として意図した使い方にはなっていないことは店舗オーナーもわかっていたことだと思いますが、これがまかり通る以上自分だけが真面目に毎日違う文章を考えようとはしなくなるのが当然です。
結果的に、サイト上には何か月も使いまわされた偽の更新情報がはびこるようになります。
クレーム発生装置
第二に、これはクレーム発生装置になりました。
更新情報のテキストはフリー入力ですが、もちろんそこには書いてはいけない事の決まりもあってサイト上に表示させる前に社内のチェックがありました。
20個ほどあった決まりは特に変わったものではなく、
- 特定の人物や店舗、業界などを貶めることは書けません。
- 消費者の誤解を招く表現や事実確認のない実績は書けません。
などの一般的にごくごく当たり前の内容です。
このルールはもちろん店舗側にもマニュアルとして配られていて、「社内チェックで規定違反が見つかった場合は差し戻しになるので後日もう一度入稿してください」と案内されていました。
しかし、この規定を意地でも守らない店舗がありました。仮にX店とします。
X店は他の多くの店と違って第一の問題に上げたような文章の使い回しはしませんでした。それは大変いいことなのですが、そのかわり毎日気合を入れて考えた文章が差し戻されると非常に高い温度感で苦情を申し立てたのです。
X店の悔しい気持ちも分かりますが、「100%絶対に治るニキビ薬!」とか、「タピオカはもう時代遅れ!今来てるのはバナナジュース!」みたいなことをほぼ毎回書いてくるのに、OKを出すわけにはいきません。
実績数値については根拠数字の書類を提出させているわけでもないのだからもうちょっともっともらしい数値をかけばいいのに、100%なんて書いたら見た瞬間に嘘ってわかっちゃうじゃないですか。バナナジュースにしても、わざわざタピオカを落とす必要あります? 自店舗の製品をアピールしたいならその良いところだけを書けばいいのに、X店は他店舗や商品を貶める表現をやめようとはしませんでした。
今すぐ責任者が謝りに来い!
X店的には「これのどこが違反してるって言うんだ!」と納得いかない様子です。こちらとしてもできるだけNGは出したくないので、精一杯好意的に解釈して限りなく黒に近いグレーは大目にみたり、NGの時も「タピオカはもう時代遅れ!」の部分だけ取り下げて欲しいとか、「100%治る!」は載せられないけど数字を修正してくれたらあとは大丈夫ですとか、いろいろ代替案や修正案まで添えて差し戻しの通知を送るのですが、X店はその度に営業担当を呼びつけて「今すぐ責任者が謝りに来い!」と凄まじいクレームを浴びせました。
こんなことがしょっちゅう起こるので、私ともう一人の文章チェックの担当者もほとほと困っていました。
しかしながら、当時X店はモールの中でも中堅程度の取引額があり、超大口と言うわけではないにしてもここを落とすと事業の売り上げ目標達成が困難になることが予想されました。それゆえ、高度に政治的な判断(皮肉です)から、X店からクレームがついた時はNGのはずの入稿内容をOKとして通してしまうということが行われることもあったのです。
……差し戻したはずの「100%治るニキビ薬!」の文言がサイトに表示された時の私の気持ち、想像できます?
次回に続きます。
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初回:セミリタイア資金3500万円が貯まるまで①「マイナス270万円からのスタート」
次回:3500万円が貯まるまで㉔「納得いかない……イライラをぶつけてしまうことも」
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